気が向かない。

気が向いたら書く。

あたらしいペン

英国王室御用達、ペンブランドの名門PARKER

今回はそのパーカーブランドの中でナンバーワンのシェアを誇る5thシリーズについて。(ナンバーツーはソネットシリーズ)

2010年の発売から今日までで、かなりの種類が発売され、いつの間にやら大所帯となっていた5thシリーズ。

発売当初は18,000-20,000円のインジェニュイティとインジェニュイティスリムのみで、その後2012年に25,000円のソネットと10,000円のアーバンプレミアムが、そして翌年の2013年に8,000円のIMプレミアムが発売されました。今年(2014年)はまだ発売されていませんが、おそらくもう出ないでしょう。

発売当初はちょうど筆記具販売員になりたての頃で、衝撃を受けたのを覚えています。
風の噂でペンシル、ボールペン、ローラーボール、万年筆の四大カテゴリーの中に割って入る新参者がいるらしいと聞き、怖れ、慄きました。
ろくに万年筆すら説明できないあの頃の僕には高すぎるハードルだったのです。
これがパーカーが掲げる
〝あらゆるペンの進化形 第五世代のペン〟でした。
価格はメーカーの本気を感じさせる20,000円。

はあ、2万円ですか。
早速ペンを手に取り書いてみると、この、紙を這う逞しく、黒々しいインク、しかし紙との接点は神経質で野菜に喩えるならばレタスなこの感じ、まるでミリペンではないか。
いやいや、いくらペン芯の素材が同じであれ、これではいかんでしょパーカーさん。
なめとったらいかんぜよ。あんまり販売員なめたらいかんぜよ。と心の中で一瞥。

こうして新入りにファーストタッチで上下関係を叩き込む事に成功した僕は続いて付属のリーフレットに目を移しました。

ん、、、、


長いな。

どうやらミリペンとは違う点が多々あるようで、フードと呼ばれる万年筆のペン先を模したカバーがついていたり、ペン軸内部最奥に大きなスプリングが仕込まれていて快適な筆圧をサポートすると、インクも耐水性に優れていてキャップをしてなくても半日くらいなら乾かないよと。さらにペン先は万年筆同様、ユーザーの書き癖を覚えていきます(平たく言えば磨耗)。
使えば使うほど手に馴染むという点はミリペンにはない魅力。

そして未熟な僕は未熟なりに思いました。

「長いな」

ボールペンみたいにサクッと売れないじゃん。
このペンの良さを伝えるにはアレもコレも言わなくてはならず、非常に説明くさくなってしまう。かと言って説明しなければただのミリペンであるし。。。


なんて思っていたのですが、予想に反して売れました。めげずに一生懸命説明すると意外とみなさん聞いていただけました。
あの名門ブランドパーカーの新商品、なおかつ今までにない書き心地で見た目も高級そう、さらに大阪という立地で好条件が重なりご自身用もさる事ながら贈答用として特に喜ばれました。
なにより広告、雑誌、ポップアップ等のメーカーの猛プッシュがえげつなく、この5thの存在を知って来店されるお客様も少なくありませんでした。(そのおかげで今やメーカーナンバーワンのシェアを誇るまで成長したのですが)
今でもパーカーのポップアップがあれば必ずフルラインナップで並んでいますよね。発売当初から現在まで、予想に反して爆発的に売れている間違いなくヒット商品です。
しかも流石のパーカー。この5thシリーズはすでに、ヨーロッパから始まりアメリカ、ロシア、中国などでも販売されています。

発売当初、物は試しだと思いインジェニュイティをお考えのお客様にステッドラーのミリペンをそれとなく、勧めてみたら普通にそっちを買っていかれたという逸話は未だに売り場に語り継がれているようです。


さて、僕の体験談はこのくらいにしておいてここから先は各モデル、それから最近出たカラーインクの耐久性について書いていこうと思います。

現在、5thシリーズからは5つのモデルが発売されています。
ソネット、インジェニュイティ、インジェニュイティスリム、アーバンプレミアム、IMプレミアム(価格順)

ソネットはメタル&ホワイト、ピンクゴールドと完全に女性がターゲットのカラーとなり、そのわけあってか5thシリーズ内では最も軽量です。(値段は最重量/25,000円)
しかしまだ重い、ある程度重さが必要なのはわかりますがもうちょっと削ってほしいですね。
あとなぜこんなに高いんでしょう。
パーカー伝統のソネットシリーズの割に中国製ということには些か疑問がありますが。(5th以外のソネットはフランス産)
全体的なバランスは良いのですが、やはり女性がターゲットであるため男性の方にはすこし物足りなく感じてしまうかもしれません。
デザインがダサいのはご愛嬌。パーカーは女性らしさを色でしか表せないのでしょう。

次はインジェニュイティとインジェニュイティスリム。
なんだか文面が喧しいインジェニュイティとインジェニュイティスリム。たしか何語かで発明品だかなんだかを意味する言葉らしいです。

価格は同じなのですが、違いがいくつかあります。
インジェのグリップ部には段差があり、スリムの方にはありません。
結構この段差を気になさる方いらっしゃいますよね。僕も気になるのでスリムを買いました。

次に重量です。
スリムの方が少し軽く、細いです。
そのスリムの中でも特筆すべきはメタルシリーズ
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実は他のスリムと違い3gだけ重たいのですが、このメタルシリーズのバランスがとにかく良い。段差のあるなしに関わらず僕はこのスリムを推します。持ち比べればきっと分かって頂けるかと思います。インジェは重心が全体に散っていてどっちつかずな感じがありますが、スリムメタルはどすんと、真ん中に重量があって書きやすく、ペン先とペン尻がほどよく釣り合っているような感覚です。
ペン先の特性上、できればペンの自重だけで書きたいのでその点でスリムメタルは非常に優れています。イチオシです。

お次はアーバン
最低18,000円の5thシリーズに突如現れた黒と白の彗星アーバンプレミアム。
既存のアーバンシリーズ同様、人体力学に基づいたとか言ううさんくさいボディ。
これは販売員泣かせでした。もちろんどのシリーズも中の芯は同じなので、どうしても価格の安いアーバンが売れてしまうのです。
そこをトークでカバーするのが販売員の務めと言えど値段が倍にもなると難しい。。。(中には芯だけでええわ、と言って芯だけで使おうとするパワフル?ユーザーもいました)

デザインだけでなく、もちろん実際持ち比べて頂くのですが憎いことにこれがまた中々優れたバランスで。インジェニュイティやスリムはキャップを尻軸に差さないほうが書きやすいのに比べ、こちらは差した方が全体的なバランスが良く、書きやすいです。

さらにスリムより軽いので、携帯するのにはアーバンの方が向いていたり。。しかし値段は値段。ボディは安っぽさが感じられ、グリップ部は劣化が早そうです。

最後はIMプレミアム。
驚愕しました。それは見た目でもバランスでもなければ書き味でもありません。値段です。


8,000円


パーカーはなにをやっているんだと、そんなに価格を下げて客を引き込みたいのかと、お前にプライドはないのかと、販売員の顔を見たことがあるのかと、そう思いました。
恐ろしくずる賢く、よくある常套手段です。最初は高価格で猛プッシュしておいて廉価版をおいそれと出す。。。恐ろしい。。
最近で言うところのデュオフォールドのビッグレッドとかの新色のあとに定番のを見ると アレ?安くね?ってなるあれです。

僕はまた泣きました。
くそ、また安いのが来たのか。またお客様に「なんでこっちはこんな高いねん」と言われる日々がくるのかと。
しかし希望の光はありました。
なんと重さはスリムと同じ。よしよし、これで携帯性うんぬんは言わせないぞ。
バランスは、うん。うん?。。。ん?これは、、

いける。いけますぞ。

これならアーバンが売れる。ざまあみろパーカーめ。そんなにポンポコポンポコ出すから痛い目見るんだ。俺は意地でもアーバンを売ってやるぞ。

しかしこれもパーカーの罠でした。
恐ろしいブランドです。
価格を下げ、客を引き込むのはアーバンまで。IMはその価格で踏み切り板の役目を成し、高級ラインを買わせる為の手段にしかすぎなかったのです。

それを裏付けるかのようにIMを持ったお客様はアーバンを選ぶようになり、アーバン持ったお客様はインジェニュイティを選ぶようになりました。メーカー戦略恐るべしと言ったところでしょうか。


はい。ここで各モデルの説明は以上です。
実際に持って頂くのが一番ですが、僕のおすすめはインジェニュイティスリムのメタルシリーズです。軸の太さといい重心といい素晴らしいモデルです。もしアーバンでお考えの方も持つだけでも持ってみて下さい。アーバンの素材的な安っぽさ、グリップの劣化のしやすさを考えれば十分検討範囲内かと思います。
あとIMを買うぐらいならお昼ご飯を何日か削ってアーバンを買ってください。マジです。

次にインクです。
パーカーが独自に調合したという水性の染料インク。
最初はブラックとブルーの芯だけでしたが、最近になってなにやら色気付いた色も出してきました。
オリーブグリーン、ピーコックブルー、バーガンディ、パープルの四色です。
素直にグリーンとかレッドとかを出さないあたりが頭にきますね。
ちなみに僕のお気に入りはバーガンディちゃんです。

パーカーが5thインクの特徴の一つとしてあげているのが耐水性。
やはりユーザーにとって耐久性というのは重要ですからここは目をつぶれないポイントです。
販売員をしていた時にメーカーの方から見せていただいたパンフレットに5thのインクを耐水実験している項目がありました。
確かに水に浸けた画像を見ても全く滲んでいませんでした。しかし、試されていたのはブラックのインクのみ。ブルーや新しく出たカラーインクはどうなのか。
きっとお気に入りのバーガンディちゃんもブラックと同じくなんの澱みもなく、雄々しくも撫でやかな姿がそこには残るはず、百聞は一見に如かず。ついでなので耐水実験に加えて外に放り出して耐光性(日光)も実験してみました。
筆記後、一定時間置き定着させた後、紙ごと水に一分、浸しました。
こちらです。ご覧ください。(字が汚くて申し訳ない。。。)
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左が水に浸す前、右が浸した後です。

オリーブグリーンはほぼ読めなくなり、続いてピーコックブルー、パープルはぼんやりと残る程度。そして肝心のバーガンディちゃんはと言うと、なぜか下書きでもしたかの様な黒の線が浮き上がってきました。しかし読めはする。読めさえすればもはやそれがバーガンディの色でなくてもいい。流石だバーガンディこれなら十分実用範囲内だ。ブルーも滲みはしたもののハッキリ読めます。
ブラックは流石ですね。一滴の滲みすらありません。むしろ濃紺が上がってきて若干濃くなったような気さえします。というか青い。
結果としてパーカー5thシリーズの特徴であるずば抜けた耐水性というのはブラックにしか見られませんでした。
ついでに裏抜けです。ご覧ください。
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水に浸す前はほぼ問題なし、浸すとなぜかブラックがイエローの色を出すという謎の現象。

次は耐光性です。
筆記後、一定時間置き定着させた後、僕の気が済むまでベランダに放り出しておきました。
こちらです。ご覧ください。





すいません。外に出していたことをすっかり忘れており、気がついた頃には愛想を尽かされベランダから姿を消していました。めんどくさいのでもうしません。忘れてください。

さて、5thインクの耐久性テストはこの様な結果になりました。
ブラックは心強いですね。何回か試したのですが、やはり水に浸すとなぜか濃紺になり、裏にはイエローが抜けました。
インクの性能はもちろん、キャップレスで放置していてもドライアップしづらいという点は、万年筆ユーザーにとっては喉から手が出るほど魅力的な特徴であると言えます。


と、ここまで長々と5thについて語ってまいりました。(安心してくださいもう終わります)

これほどまでに語った5thですが、”第五世代のペン”と謳うには甚だおかしいと、そう思います。
これが第五世代ならとっくにミリペンが第五世代でしょう。
手に馴染んだ万年筆の様に惚れ惚れするような書き味もなければペンシルのように紙で芯を削る快感もなく、ボールペンのようにいつでも頼れる存在でもないし、ローラーボールのように溢れ出るインクを愛でることも出来ません。

ミリペンの進化形。

しかし、気軽にペン先が育つ楽しみが感じられる良さがこのペンにはありますし、とにかく速乾性に優れ、左利きの方でも安心して使えます。書き味も均一な線の中にトメやハネ、ハライが見られます。サラサラとメモする時はもちろん、ドライアップしづらいのでボーッと考え事をするときには持ってこいです。しかも気圧の変化にも強いので旅行などで飛行機に乗っても安心です。万年筆のように小分けにしたボトルを持ち歩く必要もありません。

先日、ポップアップイベントを開催しているところで何気なく試し書きをしていたら、スタッフのお姉さんに「万年筆のような〜…」「まさに万年筆〜…」と熱弁され、違和感を覚えたのがこのエントリのきっかけです。

これは万年筆のような書き味でもないですし、万年筆に取って代わるようなものでもありません。万年筆にも善し悪しがあって、この5thにも善し悪し悪しがあるのです。


そこを間違えなければこれまで語ってきたように気軽に使え、日々の生活に組み込みやすい素晴らしいペンです。
考えことをするとき、メモをとるとき、手帳に予定を書き込むとき、お礼のお手紙を書くとき。
万年筆の経験がない方でも手軽に気持ちを文字に乗せることができます。

賛否両論。意見が真っ二つに分かれる5th。あなたのお手元に一本いかがですか。
何気ない日常がぱあっと明るくなりますよ。




ここまで読んで頂きありがとうございました。
前回のエントリからだいぶ空いてしまいましたが今回も疲れたのでしばらく書かないと思います。というかネタがありません。
読んで頂いてありがとうございました。


本来ならば最後にアフィリエイトとか言うものを貼りたいところですが、そんな知識はないので文だけで失礼します。

もし買ったのなら僕にもお金ください。
さようなら。